好評だった昨年につづき、今年も横浜開港記念会館にアーサー・ビナード氏をお招きしました。今年はご要望にお応えし、日曜日の午後に設定することができ、100人近い方が参加してくださいました。ありがとうございました。
アーサー・ビナード氏は1967年米国ミシガン生まれで、日本語で詩を書く詩人。日本に来て25年、良きアメリカの故郷と良き日本の文化や日本語をこよなく愛し、豊かな感性で詩作や翻訳などの創作活動をすると同時に、テレビ・ラジオへの出演やエッセイなどを通じて、反グローバリゼーション・反覇権主義の立場で、新自由主義・原発・環境・憲法・TPPなどの問題に辛口の批評をすることでも知られています。
今回のテーマ「日本語を取り戻す!」は、私たちがうっかりしていると、私たちの文化の根っこである日本語がなくなってしまう、という危機感に満ちたものでした。まさか?と思うでしょうか。例えば、「積極的平和主義」という言葉は本来の「positive peace」とは全く異なる意味に、時の権力に都合のいいように作り替えられてしまっています。日本には「ムロ」という文化があります。大豆を発酵させて納豆ができるように、言葉とはもともと、人々が発酵させて生まれ熟成していくもの。コピーライターが作ったような既製品の言葉は、まさに「きれいな包装紙」。その中身を覆い隠し、人を騙すものとなります。そうならないようにするには、私たちの言葉を私たちの手に取り戻す。自分たちの言葉をゆっくり発酵させ熟成させ、味わい育てていれば、偽物の言葉にも気づくことができ、その偽物をばらまいている背後にあるものにも気づくことができるでしょう。
自分の名前を「美納豆」と書くように、納豆が大好きだというビナード氏。イギリスの昔話「Jack and Beanstalk ジャックと豆の木」の話を導入に、異世界征伐の似た話として「桃太郎」を引き、落語を交えてテンポ良く笑わせ、いつテーマの話になるのかハラハラさせられましたが、本題に入ると俄然緊張感の高まる講演となりました。そして、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の世界が豊かな里山を背景に熟成された言葉たちで紡ぎ出されていること(決して滅私奉公の道徳教材ではない)を、自ら英訳した絵本「Rain Won't」を手にしながら語り、最後に最新刊の歌える絵本「すばらしいみんな」を手に自ら歌うというサービスに、会場は拍手喝采となりました。英語と日本語、日米の社会と歴史に対する造詣の深さを駆使し、ユーモアたっぷりに語り、聴く者に勇気と力を与えてくれました。おかげさまで、著書の販売サイン会も盛況でした。
地球の木講座担当:斎藤聖